3 ベクトルの3重積

3つのベクトルの積の演算のうち, $ \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$ $ \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$は,電磁気学でしばしばあらわれる.前者をスカラー 3重積,後者はベクトル3重積と呼ぶ.ここではこれらのベクトルの演算について述べる.

3.1 スカラー3重積

3.1.1 対称性

$ \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$の演算結果はスカラーになる.まず括弧内の 外積 $ \boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}$はベクトルになり,それとベクトル $ \boldsymbol{A}$との内積はスカラーにな るからである.そのため,スカラー3重積と呼ばれる.

スカラー3重積 $ \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$は,括弧を省いて, $ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}$と書かれることもある.この場合でも,ベクトル積 $ \boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}$の演算を優先する. $ \boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B}$の演算を先にすると,こ れがスカラーになり演算を続行することが不可能となるからである.

スカラー3重積の性質をカーテシアン座標系で確かめる.成分で表したスカラー3重積は,

$\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$ $\displaystyle =A_x(B_yC_z-B_zC_y)+A_y(B_zC_x-B_xC_z)+A_z(B_xC_y-B_yC_x)$    
  $\displaystyle =A_xB_yC_z+A_yB_zC_x+A_zB_xC_y-A_xB_zC_y-A_yB_xC_z-A_zB_yC_x$ (24)

となる.これは対称性の良い式である.各項はそれぞれのベクトルの成分を一つ含む.そ れを$ A,B,C$の順序で並べると,$ (x,y,z)$のサイクリックに並んだとき正に,その逆の $ (z,y,x)$のサイクリックに並んだとき負になる.このことから,元の式 $ \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$のベクトルはサイクリックに入れ替えても値は変わらない といえる.そして,逆に巡回させると符号が逆になることも分かる.すなわち,

$\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$ $\displaystyle =\boldsymbol{B}\cdot(\boldsymbol{C}\times\boldsymbol{A})=\boldsymbol{C}\cdot(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})$    
  $\displaystyle =-\boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{C}\times\boldsymbol{B}) =-\bold...
...\times\boldsymbol{C}) =-\boldsymbol{C}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{A})$ (25)

である.もっとも,負になる場合はベクトル積の入れ替えは負になることからも分かる. これがスカラー3重積の最初の重要な性質である.

3.1.2 幾何学的な意味

つぎにこのスカラー3重積の幾何学的な意味を考える.図6に示す ようにスカラー3重積の値は,3つのベクトルが作る並行6面体の体積になる.ベクトル $ \boldsymbol{B}$ $ \boldsymbol{C}$が作る平行四辺形の面積$ S$

$\displaystyle S=\vert\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}\vert$ (26)

となる.そして,この $ \boldsymbol{B}$ $ \boldsymbol{C}$が作る平行四辺形の対面との高さ$ h$

$\displaystyle h=\frac{\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}}{\vert\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}\vert}\cdot\boldsymbol{A}$ (27)

である.したがって,並行6面体の体積$ V$

$\displaystyle V$ $\displaystyle =Sh$    
  $\displaystyle =\vert\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}\vert\frac{\boldsymbol{B}...
...boldsymbol{C}}{\vert\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}\vert}\cdot\boldsymbol{A}$    
  $\displaystyle =\boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$ (28)

となる.この式からわかるようにスカラー3重積は,それぞれのベクトルが作る並行6面体 の体積になっている.ただし,スカラー3重積が負にもなるので注意が必要である.負の 場合は,その絶対値が体積になる.
図 6: スカラー3重積の幾何学的意味.3つのベクトルが作る並行6面体の体積になる.
\includegraphics[keepaspectratio, scale=1.0]{figure/heikou6mentai.eps}

3.1.3 行列式との関係

もっと興味深いのは,行列式との関係である.式(24)から,ス カラー3重積は行列式を用いて,

$\displaystyle \boldsymbol{A}\cdot(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})= \begin{vmatrix}A_x & A_y & A_z \\ B_x & B_y & B_z \\ C_x & C_y & C_z \end{vmatrix}$ (29)

と書くことができる.これで,極めて見通しのよい式になった.これで, $ \boldsymbol{A},\boldsymbol{B},\boldsymbol{C}$をサイクリックに入れ替えても値が変わらないし,逆順だと負の 符号がつくこともわかる.

一方,3つのベクトルの体積になっていることも分かる.行列式のイメージは体積だ! こ れは線形代数の基本である.これは3次元のみならず,2次元--この場合は面積--でも, 4次元でも$ n$次元でも同じイメージである.

3.2 ベクトル3重積

おそらく,電磁気学ではスカラー3重積よりもベクトル3重積の方が重要であろう.いろい ろな場面でこのベクトル3重積

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C}) =\boldsy...
...symbol{A}\cdot\boldsymbol{C})-\boldsymbol{C}(\boldsymbol{A}\cdot\boldsymbol{B})$ (30)

が表れる.スカラー3重積の場合と異なり,括弧を省略してはならない.なぜならば,

$\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})\ne(\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})\times\boldsymbol{C}$ (31)

となるからである.これは単純な例を考えれば分かる.例えば, $ \boldsymbol{A}=\boldsymbol{i}$ $ \boldsymbol{B}=\boldsymbol{i}$ $ \boldsymbol{C}=\boldsymbol{j}$

  $\displaystyle \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})=\boldsymbol{i}\times(\boldsymbol{i}\times\boldsymbol{j})=-\boldsymbol{j}$ (32)
  $\displaystyle (\boldsymbol{A}\times\boldsymbol{B})\times\boldsymbol{C}=(\boldsymbol{i}\times\boldsymbol{i})\times\boldsymbol{j}=0$ (33)

が得られる.明らかに,括弧の位置で演算結果が異なる.

ベクトル3重積の証明は,諸君の課題とする.カーテシアン座標系で右辺と左辺の成分を 計算して,等しいことを示せばよい.カーテシアン座標系で成り立てば,他の座標系でも 同じように成り立つ.なぜならば,式(30)は,ベクトルなので 座標系に依存しない量になっているはずであるからである.

ベクトル3重積について,簡単に幾何学的な考察を行う.ベクトル積 $ (\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$の演算結果は,ベクトル $ \boldsymbol{B}$にも $ \boldsymbol{C}$にも垂直の方向を 向いている.それと $ \boldsymbol{A}$とのベクトル積もまた垂直になる.これから,ベクトル3重 積の $ \boldsymbol{A}\times(\boldsymbol{B}\times\boldsymbol{C})$の方向について,て次のことが言える.

このうち,最初の結論は重要である.ベクトルの3重積は $ \boldsymbol{B}$ $ \boldsymbol{C}$の一時結合 で表すことができると言っている! 式(30)は $ \boldsymbol{B}$ $ \boldsymbol{C}$の一時結合になっている.
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著者: 山本昌志
Yamamoto Masashi
平成19年5月9日