皆さまいかがお過ごしでしょうか。
秋田高専のホームページにようこそ。
秋田高専の校長の高橋です。
令和7年があけました。
昨年末から北海道や青森県で大雪に見舞われております。
関係の皆さまに心からお見舞いを申し上げます。
幸いにして秋田高専のある秋田市は大雪の影響は受けておりませんが、これから受験シーズンとなりますので、大雪が受験生の障害とならないことを祈るばかりです。
冬の寒さや雪ということも含めて、秋田県は山あり海あり、実に雄大な自然に恵まれています。県内どこをまわっても、それぞれの地域の特色ある美しい自然に触れることができます。自然の恵みを実感することのできる秋田県です。
秋田の自然と人間との関わりの一つの例として、田沢湖にまつわるお話を紹介したいと思います。
田沢湖は全国的に有名な景勝地で多くの観光客が足を運ぶところです。大変美しい湖です。
その湖畔に、「田沢湖クニマス未来館」があります。
クニマスは、漢字では「国鱒」と書きます。かつて世界中で田沢湖だけに生息していた固有種でした。田沢湖の特産品として、特にお正月のご馳走として珍重されてきた魚です。しかし、1940年(昭和15年)に農業用水の確保と電源開発を目的に玉川の強酸性水を田沢湖に導入し始めたことにより、絶滅しました。
東北地方は、江戸時代から何度も凶作に見舞われ、昭和のはじめの大凶作で大きな痛手を受けています。食糧増産が重大な課題であったのです。このような切羽詰まった必要に迫られてのことではありますが、本来は田沢湖に流れ込むことのなかった強酸性水を導入したことにより、地元の人々が大事にしてきたクニマスが絶滅してしまったのです。
「田沢湖クニマス未来館」では、そのような時代背景や当時の漁具や丸木舟、湖畔の人々の暮らしなどを多数のパネルや映像で解説しています。
幸いにしてクニマスは、卵が移植された山梨県の西湖で生き延びていることが確認されました。2011年(平成23年)のことです。
しかし、田沢湖にクニマスが里帰りすることはできません。強酸性水導入による水質の変化により、田沢湖の水質ではクニマスが住むことはできないのです。
地球温暖化の関係もあり環境問題が注目されていますが、我々が歩んできた歴史は、このような厳しい歴史の積み重ねであったということを「田沢湖クニマス未来館」で実感することができます。人間が生きることと自然との関わりは、一筋縄ではいかない難しさがあります。
田沢湖の水質の変化に関係してですが、秋田高専の専攻科(専攻科は本科5年の後の2年間の課程)の学生を中心として執筆された研究論文が、このたび土木学会論文集に掲載されることになりました。題名は、「水生生物の生物応答を用いた玉川―田沢湖水系におけるpH調整による毒性変化」です。
ごく簡単に内容を紹介すると、田沢湖の水質の酸性化の進行への対策として、1991年(平成3年)から、玉川中和処理施設での中和対策が開始されているので、玉川―田沢湖水系の酸性区間における玉川中和処理施設、玉川ダム、田沢湖の3地点について水生生物を用いた短期慢性毒性試験を行い、取りまとめた論文です。
地元の高専ならではの研究成果ではないかと思います。土木学会においてご評価をいただいたことに心から感謝を申し上げたいと思います。
田沢湖の水質とクニマスの悲しい物語、また、秋田県はクマの出没がしばしば報道されています。
繰り返しになりますが、人間と自然との関わりは難しいバランスが求められます。自然を守ればよい人間なんてどうなっても構わない、というのは、自然など人間の都合でどうにでもしてしまって構わない、というのと同じように暴論です。と同時に、難しいといって手をこまねいてばかりというのでは何にもなりません。やはり、科学の力で自然の変化や人間の与える影響について解明していく、技術を発展させて問題点を改善していく、そんな努力を積み重ねるのが人間なのではないでしょうか。
美しい自然に感動し自然の恵みに感謝するのは人間として自然な感情だと思います。だからこそ、どう自然と折り合いをつけていくべきか、思い込みや暴論に流されることなく、科学や技術を活用していくことが必要ではないでしょうか。
高専は技術者を育成する学校です。
地元の課題に取り組む、実践的な教育研究を行う学校です。
自然との関わりについても秋田高専の教育研究活動のスコープに入っています。この点を皆様にご理解いただきたく、本校専攻科の学生の成果を土木学会でご評価いただきましたことを紹介いたしました。